2005年の小山内美江子さんの『金八先生』脚本家降板事件の後、春馬さんは『14才の母』(2006)、映画『恋空』(2007)『ごくせん3』(2008)に出演しました。
これらの作品は『金八先生』を代表する「十五歳の母」や「腐ったミカンの方程式」の影響を強く受けていて、『金八先生』と小山内さんへのオマージュ作だと考えられます。
春馬さんの熱演で、これらの作品がヒットしたことによって、福澤は春馬さんへの逆恨みを深めていったと考えられます。
2006年 日テレ『14才の母』(2006)
春馬さんの子役から青春スターへの過渡期の出演作として、2006年10月11日から12月20日に日テレで放送された『14才の母 愛するために 生まれてきた』があります。春馬さんは志田未来さん演じる一ノ瀬未希のボーイフレンド、桐野智志を演じました。
『14才の母』では、中学生カップルの妊娠・出産の問題が描かれています。この問題をテレビドラマで最初に取り上げたのは1979年放送の『3年B組金八先生』第1シリーズで、関連する放送回のタイトルには「十五歳の母」が含まれていました。このため、一括して「十五歳の母」と呼ばれています。
『14才の母』は「十五歳の母」にそっくりなタイトルで「十五歳の母」と同じ中学生カップルの妊娠・出産の問題を扱っています。『14才の母』が『金八先生』「十五歳の母」への敬意を表したオマージュ作なのは明かです。


「十五歳の母」で杉田かおるさんと鶴見辰吾さんが演じたカップルは、下町の桜中学の生徒で3年B組のクラスメイトでした。一方『14才の母』の舞台は山手です。また時代を反映して、志田未来さんと春馬さんが演じたカップルは、別の私立中学校の生徒で、塾で知り合います。
この設定は、小山内さんが1979年に「十五歳の母」で取り上げた中学生カップルの妊娠の問題が、時代が変化してもどのような環境の中学生にも起こりうる普遍的な問題であることを表現しています。
問題は、『金八先生』を象徴する「十五歳の母」のあからさまなオマージュ作の『14才の母』が、なぜTBSではなく日テレで製作されたかです。前述の通り『14才の母』放送の前年2005年3月出版の『さようなら私の金八先生』の中で、自分の第7シリーズ途中での『金八先生』脚本降板が、福澤克雄を中心としたTBSによる更迭だった事が明らかにしていました。
『14才の母』の監督は『ごくせん』シリーズの佐藤東弥さんです。2006年の『14才の母』放送の前年、2005年1月15日から3月19日に『ごくせん』第2シリーズが放送され、全話視聴率が20%を超え、最終回は32.5%を記録する大ヒットとなっていました。
東弥さんの父親は「ミスター超大作」と呼ばれた、映画監督の佐藤純彌さんです。純彌さんは1968年から1973年にかけてTBSで放送された大ヒット作『キイハンター』で構成とエンディングテーマの作詞をつとめ、最終回などの脚本を書いています。
また1975年から1982年まで放送された『Gメン75』では、構成、監督、エンディングテーマ作詞、脚本を手がけ、TBSに大きく貢献しました。
小山内さんも『キイハンター』と『Gメン75』で脚本を書いていて、仲が良かったそうです。そのため、以前から純彌さんの息子の東弥さんの事も知っていたのでしょう。
ちょうど『ごくせん』第2シリーズと同じ時期に出版された『さようなら私の金八先生』の中で、小山内さんは中学校を舞台とした学園ドラマの限界についてふれ、高校を舞台にした『ごくせん』をうらやましいと述べて、東弥さんの手腕を高く評価しています。おそらく、小山内さんから純彌さんを通じて、東弥さんに『14才の母』を作らないかと話しが行ったのでしょう。
一方、福澤は2006年1月に初映画監督作の『涙そうそう』から降板しています。これは『金八先生』の乗っ取りが原因と考えられますが、降板のタイミングを考えると『金八先生』オマージュの『14才の母』が日テレで作られた事が、一番の原因かもしれません。
『金八先生』オマージュ作を他局の日テレに放送されたことは、ドラマ・映画業界で「福澤に学園ドラマを演出する資格なし」の烙印を押されたのと同じです。つまり、福澤は劇場版『涙そうそう』監督降板に続いて『14才の母』でまた面子をつぶされたのです。
純彌さん・東弥さんに向けたと考えられるのが、木村ひさしの2020年7月26日インスタです。この日木村は「GO TO だから混沌か」という色紙をアップしました。これは東弥さんが監督した映画『レッツゴー永田町』と純彌さんが監督した映画『敦煌』から取ったものだと考えられます。
純彌さん・東弥さん親子が動いて日テレで『14才の母』を製作したことが、春馬さんが亡くなった原因だと言いたかったのでしょう。
『14才の母』で描かれた中学生カップルの妊娠・出産は扱うことの難しいテーマです。実際に女子中学生が妊娠・出産をすれば、進学や職業選択などその後の人生に大きな負担が生じます。それを承知の上で家族や周囲が出産を承諾するというのは、ファンタジーかもしれません。
またキャスティングも非常に難しい問題です。特に、ガールフレンドの未希を妊娠させてしまう智志に清潔感と誠実さが感じられなければ、だらしのないカップルの無責任な行動の結果なだけと視聴者には映ります。『14才の母』の世界が成り立つかどうかは智志役の俳優にかかっています。いくら「十五歳の母」オマージュを作りたいと思っても、智志を演じられる俳優がいなければ作れません。
『14才の母』は、智志のイメージに合致する春馬さんがいたから、制作することができた作品と言えます。言い換えれば、春馬さんがいたがために、福澤は面子をつぶされたのです。春馬さんは、福澤にとって重ねて憎らしい相手になりました。
『カネ恋』で玲子の家に下宿することになった慶太の荷物を運送業者が届けに来て、慶太は廊下から段ボール箱を部屋に入れます。この場面は、『14才の母』の最終回で、未希と一人娘の「そら」を守るため、智志が中卒で運送業者で働き出します場面の揶揄です。
また第1話で父親が逮捕される場面の玲子の家は、玲子は坂道を登って家に帰ってきます。これは『14才の母』で、未希と弟が坂道を登って学校へ向かう場面への揶揄だと考えられます。これも『14才の母』関係者に対する嫌がらせだったと考えられます。
2007年 映画『恋空』
『14才の母』の放送が始まった2006年の秋から小山内さんとTBSの間で話し合いが持たれ、最終第8シリーズが制作される事になり、2007年10月11日から2008年3月20日にかけて放送されました。女流演出家の今井夏木さんが監督で、生野さんも演出に参加しました。
『金八先生』最終第8シリーズの放送と同時期、2007年11月3日に公開されたのが映画『恋空』です。『恋空』で春馬さんは新垣結衣さんと悲劇のカップル、ヒロと美嘉を演じました。『恋空』はTBSの制作で、監督は『金八先生』第8シリーズと同じ今井さんです。
『恋空』は高校生カップル、ヒロと美嘉の激しく悲しいロマンスが描かれているため気づきにくいのですが、その内容を見ると金八先生へのオマージュが多数認められます。まず『恋空』では高校生の時、美嘉はヒロの子供を妊娠します。中学生と高校生の違いはありますが、未成年カップルの妊娠という意味では「十五歳の母」と同じ問題を取り上げています。
「十五歳の母」では、周囲の励ましをうけて赤ちゃんを出産し、人として成長しますが、『恋空』では、美嘉はヒロの赤ちゃんを流産してしまいます。しかし、美嘉とヒロはその悲しみを乗り越えて、人間として成長していきます。これは、敬意を表す作品と逆の展開を入れて、同じテーマを描く反転オマージュと呼ぶべき技法です。
また『恋空』のヒロは、はじめは髪を金髪に染めた不良ですが、美嘉と付き合ううちに心が浄化され、本来の優しさを取り戻してゆきます。この設定は、もう一つの『金八先生』を代表するテーマである第2シリーズ「腐ったミカンの方程式」へのオマージュだと考えられます。
『金八先生』第2シリーズで桜中学校に転校してきた加藤優(直江喜一)は最初不良ですが、金八とふれ合ううちに、本来の自分の優しさを取り戻してゆきます。美男子と美少女の春馬さんと新垣さんが演じているので気づき難いですが、「腐ったミカンの方程式」の加藤と金八の関係が、『恋空』のヒロと美嘉の関係になります。
その他にも『恋空』には『金八先生』をオマージュした表現が沢山あります。例えば、春馬さんが新垣さんを後ろに乗せて自転車で急な坂道を下る印象的な場面があります。「十五歳の母」でも、荒川土手で、鶴見辰吾さんが杉田かおるさんを後ろに乗せて二人乗りする場面があります。
『金八先生』は荒川土手で撮影された場面が、多く使われています。『恋空』では、山場の美嘉とヒロの二人だけの結婚式など、重要な場面が川の堤防で撮影されています。
『恋空』では土手の向こうに鉄橋があり、度々列車が通りますが、金八先生第2シリーズでも番組のオープニングで、荒川鉄橋を渡る電車が画面に映ります。
『恋空』監督の今井夏木さんは1971年生まれで、1964年生まれの福澤より7才年下です。しかし、福澤より早く映画監督を務めた『恋空』の興行収入29億円は、翌2008年公開の福澤の『私は貝になりたい』の28億円を上回っています。
『14才の母』に続いて、小山内美江子金八先生オマージュ作を、春馬さん出演で制作された上、映画興行収入でも敗れて、福澤の面子はまたもやつぶされました。
『カネ恋』第1話で、玲子と慶太が出会う場面で、古道具屋の花瓶にひまわりが生けてあります。これは『恋空』で美嘉がなくした携帯を見つけた図書室の花瓶にひまわりが生けてあった事に由来していていると考えられます。
また、この時、玲子がフォークロア調の衣装なのは、『恋空』舞台挨拶で、フォークロア調の服を着ていた事に由来すると考えられます。これらは、新垣さんが春馬さん、新垣さんそして今井夏木さんをはじめとする『恋空』関係者への嫌がらせと考えられます。
2008年 日テレ『ごくせん』第3シリーズ
2008年、春馬さんは『ごくせん』第3シリーズで再び、佐藤東弥監督の作品に出演しました。小山内さんがうらやましいと言った『ごくせん』ですが、型破りな教師のやんくみと不良生徒達のドラマなので、金八先生第2シリーズ『腐ったミカンの方程式』的な要素が元々あります。
その中でも特に、『金八先生』第2シリーズへのオマージュとなっているのが、第2話「お前らは今日から仲間だ!!」です。この回の『ごくせん3』は『金八先生』第2シリーズ第5話・6話「腐ったミカンの方程式」へのオマージュです。
「腐ったミカンの方程式」では、金八は加藤や不良グループ魑魅怒呂と話し合うため、たまり場のスナックZへ行きます。金八と話し合っているうちに、興奮した加藤や不良は殴りかかりそうになります。それでも金八は「すきっ腹抱えて話し合いはできない」と流れを変えて、焼きそばを作りだします。結局、金八は対話によって加藤を連れ戻します。
一方『ごくせん3』の「お前らは今日から仲間だ!!」では、やんくみはカラーギャングのアジトへ行って、捕まっている廉(三浦春馬)達を「返して欲しい」と頭を下げて頼みます。しかし、ギャングがたのみを聞き入れなかったため、やんくみは強硬手段に出て、生徒達を取り戻しますが、武器は使いません。
そして、「お前らは今日から仲間だ!!」のラストシーンで、やんくみが生徒達を缶蹴りしようと、河川敷に連れ出すのは、「腐ったミカンの方程式」のラストシーンで、加藤と松浦が一緒にサッカーをしている場面へのオマージュと考えられます。
サッカーでなく、缶蹴りなのは、1978年から日テレで放送され、『金八先生』が中学を舞台とするきっかけとなった、小学校舞台の学園ドラマ『熱中先生』へのオマージュを示しているのかも知れません。
春馬さん達、若手俳優の熱演もあって『ごくせん3』は社会現象とも呼べるヒット作となり、2009年にシリーズ完結編でもある『ごくせん THE MOVIE』が制作され、興行収入34億円のヒット作となりました。
福澤監督のリメイク劇場版『わたしは貝になりたい』は2008年の公開ですが、公開日が11月22日だったため、統計上は2009年公開の作品として扱われます。『ごくせん THE MOVIE』の興行収入34億円は、リメイク劇場版『わたしは貝になりたい』の28億円を上回っています。
『カネ恋』で春馬さんの役名の姓が猿渡なのは、生瀬勝久さん演じた猿渡(さわり)五郎教頭が、生徒達から「さるわたり」と呼ばれ、「サルワタリではありません。さわたりです」と答えていた事に由来すると考えられ、ごくせん関係者への嫌がらせと考えられます。
福澤映画と劇場版『コンフィデンスマンJP』
リメイク劇場版『私は貝になりたい』から10年間福澤は映画を撮りませんでしたが、2018年1月27日公開 『祈りの幕が降りる時』、そして2019年2月1日公開『7つの会議』で監督を務めました。それぞれ人気作家の東野圭吾と池井戸潤の小説の映画化で、豪華キャストが起用されました。興行成績は、それぞれ15.9億円と21.6億円です。
これらの福澤映画に続いて、春馬さんがジェシー役で出演した劇場版『コンフィデンスマンJP』シリーズが公開されました。2019年5月17日公開の第1作『ロマンス編』の興行収入は29.7億円で、福澤が監督した『祈りの幕が降りる時』と『7つの会議』の興行収入を上回りました。
福澤としては、第2作『プリンセス編』には、興行収入で勝ちたかったでしょう。しかし、春馬さん、竹内さんがプロモーション出来なかったにも関わらずプリンセス編』の興行収入は38.4億円となり、『ロマンス編』を超える大ヒットとなりました。
木村ひさしが演出した『カネ恋』第3話で『コンフィデンスマンJP』を連想させる「詐欺師」とう言葉が張られまくった郵便受けの場面があるのは、興行成績で勝てない福澤の周辺の人物が行った嫌がらせと考えられます。
春馬さんと福澤克雄
このように、福澤が『金八先生』の乗っ取りに失敗した2005年以降、制作された『金八先生』オマージュのドラマ『14才の母』『ごくせん3』に春馬さんは出演し、それぞれ大ヒットさせました。また、『金八先生』オマージュの映画『恋空』と『ごくせん THE MOVIE』の興行収入は、福澤が監督したリメイク劇場版『私は貝になりたい』に勝りました。
それから10年後に福澤が制作した『祈りの幕が降りる時』『7つの会議』の映画興行収入でも、春馬さん出演の劇場版『コンフィデンスマンJPロマンス編』に破れていました。
福澤が監督した『半沢直樹』で、半沢役の堺雅人さんに何度も決めぜりふの「覚えておけ、倍返しだ」や大和田役の香川照之さんに「お終いDEATH」と言わせ、首を掻き切るポーズをさせている事から、福澤は復讐による死を思考する性格だと考えられます。
木村の7月11日インスタや春馬さんの『カネ恋』第1回での擬態は、福澤が『カネ恋』の撮影現場にいた事を暗示しています。その『カネ恋』で玲子(松岡茉優)は何度も「ヨキ」あるいは「ヨキヨキ」と言います。
この台詞は表向きは「良き」の意味だと説明されていました。しかし、日本映画において「ヨキ」は、横溝正史原作『犬神家の一族』の復讐の言葉『斧琴菊(ヨキコトキク)』の斧(ヨキ)です。
つまり、玲子の「ヨキ」や「ヨキヨキ」は「斧」や「斧斧」であって『カネ恋』が、春馬さんへの復讐のドラマであることを示しています。TBSのドラマ関係者で、人柄の良い春馬さんに復讐したい人物は、視聴率や興行収入で春馬さんに勝てない、福澤克雄ぐらいしかいないと考えられます。
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