10. 6 『コンフィデンスマンJP』:猪木さん、倍賞さんと小山内さん

  1. タイトルの秘密
  2. 役名の秘密
  3. 『ロマンス編』の秘密
  4. 『プリンセス編』の秘密(準備中)
  5. 『英雄編』の秘密(準備中)
  6. 猪木さん、倍賞さんと小山内さん

『コンフィデンスマンJP』の主要登場人物の三人は、80年代前半の新日本プロレスの首脳、アントニオ猪木さん、坂口征二さん、新間寿さんをモデルにしています。

テレ朝『新日本プロレス中継』とTBS『金八先生』は視聴率争いのライバルでした。しかし、猪木さんと『金八先生』原作者の小山内さんには、ラ視聴率ライバル以上の深い関係があります。

猪木さんと小山内さんは、二人とも横浜市鶴見区の出身です。そして、二人をより深く結びつけるのが、猪木さんの奥さんだった倍賞美津子さんです。

倍賞美津子さん(天路里美先生)

当時猪木さんの奥さんだった、倍賞美津子さんが養護教諭の天路里美役で『金八先生』に出演していました。第1シリーズ第6話「十五歳の母・その3」では、倍賞さん演じる天野先生は、女子生徒達にかなり踏み込んだ内容の愛の授業(性教育)を行います。

『金八先生』第1シリーズ第6話「十五歳の母 その3」で、女子生徒に愛の授業をする天路先生役の倍賞美津子さん

小山内さんは以下のように、金八先生において、倍賞さんが重要な役割を果たしたことを明らかにしています。

「養護教諭」が魅力的な学校は落ち着いてる。息子の中学校時代からこれまでの間、そんな確信を持っていたからこそ、ベテラン美貌の倍賞美津子さんに演じてもらい、全国ーーというと少しオーバーだが、養護の先生たちから、やっと市民権を得た感じだというお便りをいただいた。

『さようなら私の金八先生』110ー111ページ

愛の授業の倍賞さんについても

あの“愛の授業”は財津さんが、収録現場でそういうムードをつくってくれたの。それで、長ゼリフが嫌いな倍賞美津子さんまでが、感動的な授業をしてくれてね

「3年B組金八先生」25周年記念メモリアル

と話されています。

当時、猪木さんは時々、倍賞さんを迎えにスタジオにいらしていたそうです。猪木さんは倍賞さんから、鶴見区の先輩である小山内さんが金八先生に込めた思いを聞いていたと考えられます。

武田鉄矢「猪木さんが奥さんのことを心配されてスタジオに…」金八先生撮影での思い出を回想(日刊スポーツ)

倍賞さんは、『TWO WEEKS』で春馬さんと共演もされています。

『英雄編』でダー子達がねらうお宝は「踊るビーナス」です。倍賞さんは、松竹歌劇団の出身で、猪木さんとダンスを踊られました。また新日本プロレスに運営にも深く関わられて、若手選手からは憧れの存在で、藤原喜明さんは「女神様」と呼んでいます。「踊るビーナス」のモデルは賠償さんと考えられます。

猪木さんの『闘魂外交』

1989年、プロレスラーを引退した猪木さんは「スポーツの精神を政治に取り込み、全国民が健康体を維持することで平和を実現する」事を目的とした、スポーツ平和党を作って、政界に進出し、参議院議員になりました。

参議院議員当選時のアントニオ猪木さん

議員時代の猪木さんは、プロレスラー時代に培った人的ネットワークを活用して、スポーツ平和外交を展開しました。そのハイライトの1つが、1990年のイラク日本人人質の部分開放です。

アントニオ猪木著:たったひとりの闘争 (Amazon)

この年、イラクのクエート侵攻をきっかけに湾岸危機が発生しました。イラクはクウェートにいた日本人を、イラクに連行して人質にしました。この時、猪木さんはイラクに乗り込んで交渉しました。

猪木さんの盟友だった永島勝司氏によると、モハベド・アリの協力があったそうです。

スポーツと平和の祭典の開催の成功によって、日本人の部分開放に成功しました。これをきっかけに、中曽根康弘氏がフセイン氏と交渉して、すべての日本人が解放されました。

実はこの年、小山内さんは、イラクから脱出した人々が収容されていたヨルダンの難民キャンプを訪れています。

そして、この年の12月28日に『金八先生』スペシャル8「卒業アルバム」が放送されました。このスペシャルが、倍賞さんが顔出し出演された最後の『金八先生』です。

猪木さんが危険なイラクに飛び込んで、フセインを説得して人質を救出するというのも、考えてみれば「腐ったミカンの方程式」で、加藤を連れ戻しに不良達のたまり場のバーにひとりで乗り込んだ金八を、現実化したものです。

猪木さんの闘魂外交が、小山内さんの影響を受けた証拠が、猪木さんが2014年に出した『闘魂外交』という本の中にあります。

アントニオ猪木さん著『闘魂外交』

その『闘魂外交』の中で、1995年の「平和の祭典」に向けた北朝鮮との交渉について述べた24ページに、『金八先生』第1シリーズ「入試十日前心得」で小山内さんが尊い犠牲への感謝の比喩に使った「フグを食べた人の話」が出て来るのです。

師匠である力道山がそうであったように、私もフグが大好きだと答えると、我々の民族はフグを食べる習慣がないという。役人のひとりが「日本人は人間の命の犠牲の上に成り立っているフグ料理を食べている」と言ったのがやけに印象に残りました。

北朝鮮の役人が、日本のフグを食べた人の話を知っている可能性は低いので、この話は猪木さんの創作でしょう。猪木さんは、倍賞さんから、小山内さんが「入試十日前心得」に込めた思いを聞いていて、知っていて、自分の闘魂外交は、小山内さんの影響を受けていることを示すために、フグを食べた人の話を挿入したと考えられます。

1995年、猪木さんが北朝鮮の平壌で「平和の祭典」と銘打ったプロレス興行を行ったのは、拉致問題解決の手助けに少しでもなればという気持ちがあったからでした。

自分の師匠の力道山が北朝鮮出身で、日本に来る前に生まれて、北朝鮮に残してきた娘さんと、なかなか会えなかった姿が、拉致被害者家族の姿と重なった事が、猪木さんが北朝鮮外交に取り組んだ理由です。

猪木さんは日本のプロレス界の繁栄が力道山の犠牲の上にあると考えて、力道山への感謝から北朝鮮との闘魂外交に取り組んだと考えられます。

プロレスラーの枠を飛び出して、とにかくその国へ行って、その国の人達の声を聞いて世界平和に貢献できることをするというのは、小山内さんが脚本家の枠を飛び出して、カンボジアに直接出かけて、学校を作る活動をしたことと通じます。

猪木さんをモデルにするダー子が主人公の『コンフィデンスマンJP』は第一義的には猪木さんへのオマージュ作と考えられます。

一方、猪木さんの自ら行動する平和活動に焦点を当てると、猪木さんは小山内さんが「入試十日前心得」で訴えた事を実践されていたので、より大きな意味では小山内美江子オマージュと言えます

コメントする