9. 2 『恋空』:九州ロケ地の秘密

  1. タイトルと公開日の秘密
  2. 九州ロケ地の秘密
  3. 関東ロケ地の秘密
  4. 役名の秘密
  5. 恋空ソング(準備中)

映画『恋空』のロケは、大分県を中心とする北東九州と関東で行われました。東京に近い関東でロケが行われた事はわかりますが、わざわざ東京から遠い九州でロケが行われたのはなぜでしょうか?

大分県の北の福岡県築上町に築城基地はあります。地理関係がわかっていると、美嘉が見上げる飛行機雲は、築城基地の自衛隊機のものではないかという気がします。

そこで調べてみると、九州と関東の『恋空』ロケ地は、主に特攻に関係した戦争遺構のある場所で、やはり『恋空』スタッフの平和への願いが込められていることがわかります。まず、九州のロケ地を見ていきましょう。

ロケ地情報は「全国ロケ地ガイド」の「恋空(映画) ロケ地情報・マップ」を参考にさせていただきました。

恋空(映画) ロケ地情報・マップ

動画は「普久原未来のための事業団」がYoutubeにアップされているものも使わせ頂きました。

普久原未来のための事業団ホームページ


美嘉が列車に乗り込む場面(行橋市行橋駅)

『恋空』冒頭、美嘉(新垣結衣さん)が電車に乗り込む場面のロケ地は、航空自衛隊築城基地のある、福岡県行橋市の行橋駅です。

前に述べたように「入試十日前心得」の挿入歌『道標ない旅』の作者永井龍雲さんは、行橋市の隣、みやこ町出身出身です。つまり、この場面は、『恋空』が「入試十日前心得」へのオマージュであることを、端的に表しています。

築城基地、稲童掩体、行橋駅の位置関係

築城基地は戦時中、海軍築城飛行場で、戦争末期には特攻出撃地の一つとなりました。築城基地の周りには、飛行機を隠すための格納庫掩体(えんたい)が残されていて、行橋市にある稲童掩体は福岡県指定史跡になっています。

福岡県指定史跡「海軍築城航空基地稲童掩体」


美嘉とヒロが通った高校(旧佐賀関高校)

美嘉とヒロが通った北陵高校のロケに使われたのは、2007年3月、閉校になった旧大分県立佐賀関高校で、現在も校舎が残されています。

大分市佐賀関は、佐賀関半島と佐田岬が接近した豊予海峡に面していて、古くから海上交通の要衝でした。

戦時中は、太平洋からの海上防衛の要衝となり、戦時中は旧陸軍の豊予要塞が設置され、現在も、指令部司令官官舎と関崎砲台が、保存されています。

豊予要塞砲台跡(大分県観光情報公式サイト)

美嘉とヒロが2人乗りで通る並木道ほか(大分市)

学校を抜け出したヒロと美嘉が自転車に2人乗りして通る堤防横の並木道など、多くの撮影が大分市で行われています。

大分川河口にある大洲総合運動公園は、戦時中は大分海軍航空基地で、8月15日のポツダム宣言受諾後に、宇垣纏中将らが最後の特攻に出撃した地として知られています。

https://www.asahi.com大分海軍航空基地「最後の特攻」地域住民が慰霊祭(2021年8月17日付 朝日新聞web版))

また、平和市民公園には宇治市の中尾町子さんが疎開先の大分市で出会った少女の思い出の手記が毎日新聞に掲載されたことをきっかけに建立された「ムッちゃん平和像」があります。

戦時中に結核を患って、1人寂しく亡くなっていたムッちゃんを哀悼して、世界平和を祈念する「ムッちゃん平和祭」が毎年開かれています。

平和への祈りを「ムッちゃん平和祭」(大分市ホームページ)

美嘉とヒロが2人乗りの自転車で下った坂(別府市)

『恋空』で印象的な、ヒロが美嘉を後ろに乗せて、猛スピードで下り坂のカーブを曲がる場面は、別府市小坂で撮影されました。この場面、春馬さんがスピードを落とさずカーブに入ったので、新垣さんは本当に怖がっているようです。

戦前からの保養地だった別府は、船で九州まで移動した特攻隊員達の最後の休憩地でした。

その隊員達を世話した杉乃井旅館(現在の杉乃井ホテル)の女将、西村勝乃さんたちが、戦後に隊員達を慰霊して建立した憩翼碑が、杉乃井ホテルの近くにある観海善寺にあります。毎年慰霊式が行われています。

別府市の観海善寺にある憩翼碑

憩翼碑には、西村さんの特攻隊員達への哀悼の言葉が刻まれています。

祖国の護りの為に我が身を弾丸として散り逝きし若鷲 その霊は今尚生きている

若い海鷲達が生還を期せざる出撃を前にして 淡々として語り集まり寄り語らいし此処観海寺

若き生命の最後の休息を求めて 母のふところを慕う如く訪れたゆかりの地に

純情無垢なる精神を幾末かけて追慕し 尊い御霊の憩いし地にと念じ

篤志の協賛を得て此の碑を建立

昭和二十八年四月八日 元杉の井館女将 西村勝乃 協賛豊水会

また、温泉のある別府には温泉療養を目的として、陸軍と海軍の病院がありました。現在の国立病院機構・別府医療センターの前身は、海軍病院で、後に旧陸軍病院が合併されました。そして、別府医療センターの近くに、秋山ちえ子さんが応援された社会福祉法人「太陽の家」があります。

美嘉とヒロの2人だけの結婚式の土手(宇佐市)

ヒロが自分の一番好きな場所と言って、美嘉とヒロが2人だけの結婚式の場面など『恋空』の重要場面が撮影されたのは、大分県宇佐市西高家を流れる伊呂波川の河原です。

宇佐市には、戦時中、宇佐海軍航空隊があり、戦争末期には特攻出撃地となりました。阿川弘之の小説『雲の墓標』の舞台です。

阿川弘之著『雲の墓標』

宇佐市には宇佐海軍航空隊ほか、多数の戦争遺構が残されていて、宇佐市ではそられを活用した平和運動が盛んです。

宇佐市内の戦争遺構(宇佐市ホームページ)

宇佐市平和資料館では、宇佐海軍航空隊の歴史や、特攻それに宇佐市への空襲についての資料が展示してあり、春馬さんが出演した『永遠の0』で使われた、っゼロ戦の実物大模型が展示してあります。

宇佐市平和資料館ホームページ

EXILE USAさんがナビゲーターの紹介ビデオがYoutubeにあります。

ラストシーン(東別府駅)

『恋空』のラストシーンで、駅に降り立った美嘉を家族が出迎える場面のロケ地は、東別府駅です。空襲による焼失を免れた戦前からある駅舎です。多くの苦難を乗り越えて、美嘉が生き抜ぬき成長する『恋空』のラストシーンにふさわしい場所として選ばれたのでしょう。

このように『恋空』の九州ロケ地を調べると、築城海軍飛行場最寄りの行橋駅、宇佐海軍航空隊のあった宇佐市、大分海軍航空基地のあった大分市、特攻隊員慰霊の憩翼碑のある別府市と、特攻と関係の深い場所です。

『恋空』を見た人が、ロケ地に興味をもって訪れて、戦争遺構を見学し、地域の方々の特攻隊員を慰霊する気持ちに触れて欲しいという、制作者の気持ちの反映だと考えられます。

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