7. 1 春馬さんと福澤克雄:2005年以前

  1. 2005年以前
  2. 2005年以降

 竹内さんの死の背景から、2005年の福澤克雄による『金八先生』乗っ取りの失敗が、事件の発端にある事がわかりました。では春馬さんと福澤の関係はどうでしょうか? 

調べると、2001年から2009年にかけての子役から青年スターの時代に、春馬さんは『金八先生』原作者の小山内さんと同じ価値観を持った作品や『金八先生』オマージュ作に繰り返し出演しています。

卓越した演技力を持つが故に、春馬さんは、知らず知らずのうちに、小山内さんに敬意を表す人達と福澤の争いに、巻き込まれていったのです。

2001年 TBS『真夏のメリークリスマス』


2001年にTBSで放送された『真夏のメリークリスマス』第1回で、竹野内豊さんが演じた主人公、涼の少年時代の役を、当時まだ10才だった春馬さんが演じました。
 

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2001年『真夏のメリークリスマス』第1話の春馬さん


この第1話は、ドラマタイトルの『真夏のメリークリスマス』の由来など、最終回に向けての布石が打たれており、全体を通して重要な回です。
この第1回の演出は生野慈朗さんでした。生野さんは『金八先生』に第1シリーズから参加した演出家で、スペシャル版も合わせて36話の演出を担当しています。生野さんは2023年に逝去されました。

第3、第4シリーズではチーフ監督でしたが、福澤克雄が監督を務めた第5から第7シリーズの間は、第6シリーズの第2話で一度演出を担当しただけです。

しかし、生野さんは福澤の『金八先生』追放後に制作された本編最終第8シリーズで演出に復帰しています。『金八先生』シリーズ全体の最終作となったスペシャルドラマ、2011年3月27日放送「ファイナル「最後の贈る言葉」4時間SP」の監督も生野さんでした。

生野さんは小山内さんが『金八先生』に込めた願いを1番理解していて、福澤とは一番距離のある演出家と言えます。

『真夏のメリークリスマス』に春馬さんが出演したのは、チーフの生野さんの目にとまったからでしょう。春馬さんは子役の時から、小山内さんと近い関係にある演出家の目にとまっていたのです。

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2001年『真夏のメリークリスマス』


『真夏のメリークリスマス』は、沖縄の竹富島の施設で育った涼(竹野内豊)と波流(中谷美紀)の物語で、ドラマのイメージ画像にも、竹富島の美しい浜辺で撮影された2人のものが使われています。第1話でも、春馬さん演じる少年時代の涼は波流と、夜の浜辺でクリスマスの話しをします。

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2001年『真夏のメリークリスマス』夜の海岸の場面の春馬さん


春馬さん急逝後に撮影された『カネ恋』第4話で、玲子は板垣とともに、父親を探して海辺の町まで旅をして、砂浜で父親と対面します。これは、『真夏のメリークリスマス』監督の生野慈朗さんへの嫌がらせの意味があったと考えられます。

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『カネ恋』第4話父を探して海岸にやって来る玲子

2002年 映画『森の学校』


2002年7月20日公開の映画『森の学校』で春馬さんは実質的主人公の雅雄少年を演じました。『森の学校』は霊長類学者の河合雅雄さんの少年時代を描いた『少年動物誌』が原作です。河合さんは戦時中結核のため出征しませんでしたが、多くの友人が戦死しました。

このため、戦争への怒りから、人間がなぜ戦争を起こすのかを知ろうと、戦後サルの研究をしたそうです。このような背景を持つ『森の学校』には平和へのメッセージが描かれています。

それは憲兵隊長の息子の勝久と雅雄少年が決闘するする場面です。友達のヒコヤンをいじめた勝久に、雅雄は一騎打ちを挑みます。自分より体の大きな勝久が振り下ろす竹刀に雅雄は耐えて、げんこつで勝久を打ち負かします。

雅雄の父は、正雄が竹刀を持った相手に素手で立ち向かったことを偉いと褒めます。この場面は、暴力は仲間を助けるため、他に方法がないときに、仕方なく最小限使うものであることを子供たちに教えています。雅雄は素手で立ち向かった事を父に褒められて、その事を学びます。この雅雄の心の成長を表現できたのは春馬さんだったからでしょう。

『森の学校』の2002年7月20日公開の直前に、福澤が上戸彩さんに男子俳優と本気の殴り合いを命じた金八先生第6シリーズが、2001年10月11日から2002年3月28日にかけて放送されていました。このため、森の学校の内容を知った福澤は、憲兵隊長の息子を、福澤諭吉の玄孫で大男の自分に重ねたでしょう。

そして、小柄なヒコヤンをいじめた憲兵隊長の息子が雅雄に懲らしめられる場面を、監督の立場を利用して弱い立場にある未成年の生徒役俳優に、児童虐待の演出を行う自分への批判と受け取ったと考えられます。福澤は自分のように大柄な憲兵隊長の息子をやりこめた、雅雄を演じた春馬さんを憎らしく思ったと考えられます。

福澤は『金八先生』で、上戸彩さんと北村充宏さんに本気の殴り合いを命じましたが『森の学校』の雅と憲兵隊長の息子の決闘は、本気の殴り合いではありません。しかし、人の心をより大きく動かしたのは『森の学校』です。

木村ひさしが演出した『カネ恋』第3回では、膝を抱えて座る春馬さんが外を見る場面がありますが、これは『森の学校』の一場面を揶揄したものだと考えられます

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『カネ恋』で膝を抱えて座る春馬さん
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映画『森の学校』で膝を抱えて座り、空を見上げる春馬さん

2002年 TBS『名探偵明智小五郎対怪人二十面相』


春馬さんが福澤克雄と直接関わったのは、2002年にTBSで放送されたスペシャルドラマ『名探偵明智小五郎対怪人二十面相』だけです。福澤が監督したこの作品で、春馬さんは、怪人二十面相に誘拐される相川泰少年を演じました。春馬さんあこがれの女優、黒木瞳さんも泰少年の母親役で出演しています。

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2002年福澤克雄監督『名探偵明智小五郎対怪人二十面相』


名探偵明智小五郎に出てくる少年と言えば、助手の小林少年です。小林少年役は中尾明慶さんが演じましたが、中尾さんは、この時すでに福澤が監督した『金八先生』第6シリーズに金八の生徒の1人「山越崇行」愛称チュー役で出演していました。

福澤克雄は、社会人になってから両親が離婚し、1993年から母方の福澤を名乗るようになりましたが、その前は父方の姓「山越」を名乗っていました。中尾さんの名前に慶應義塾の「慶」が含まれているためか、福澤は中尾さんの役名に自分の旧姓「山越」をつけて、小ずるいところのあるチューに中学生時代の自分を投影していたようです。

春馬さんは『明智小五郎対二十面相』の撮影時に、実質的な主演作『森の学校』の撮影を終えていました。また春馬さんはこの後、2003年放送の大河ドラマ『武蔵 MUSASHI』で、武蔵の最初の弟子、城太郎を演じています。これらを考えると『明智小五郎対二十面相』での春馬さんへの配役は冷遇です。

『明智小五郎対二十面相』では『森の学校』の憲兵隊長の息子との決闘の場面を自分への批判と受け取った福澤が、春馬さんに嫌がらせしていると考えられる場面があります。それは二十面相に誘拐された泰少年が洋館で発見される場面です。

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春馬さんが閉じ込められている石膏像


この場面で泰少年を演じる春馬さんは、洋館の中に飾ってある石膏像に閉じ込められています。そこに警察と、明智のライバル探偵の殿村浩三(山口祐一郎)が救出に現れます。

殿村は洋館の中に入ると、何の言葉も発せず石膏像に近づき、手にしたステッキで、いきなり石膏像を破壊しはじめます。殿村が何度かステッキを振り下ろし、最後は手刀で崩すと、ようやく石膏像が壊れ、中から泰少年が発見されます。この間、春馬さんは終始無言です。これは福澤に命じられていたからでしょう。

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泰少年役の春馬さんが閉じ込められている石膏像をたたき割る殿村役の山口祐一郎さん(その1)
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泰少年役の春馬さんが閉じ込められている石膏像をたたき割る殿村役の山口祐一郎さん(その2)
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泰少年役の春馬さんが石膏像の中から救出される場面

この場面の福澤の演出は極めて不自然です。相川泰少年が石膏像の中に閉じ込められていると殿村が考えたのなら「泰君、中にいるのか?」とまず声をかけるはずです。

そして、石膏像を破壊しないと助け出せないのなら、「怖いかも知れないが、我慢してくれ」と声をかけてから、石膏像を壊し始めるはずです。しかし、殿村は無言で石膏像に近づき、いきなりステッキで石膏像をたたき壊し始めます。また、石膏像にはすぐに壊れる細工がされているわけでもなく、殿村が振り下ろすステッキは何度かはじき返されています。

中にいる春馬さんが「助けて」や「止めて」と声を上げると、それに気が付いた殿村はステッキを振り下ろすの止めてしまい、福澤の意図した場面が成り立たなくなってしまいます。そこで、春馬さんは終始無言を通しました。

しかし、石膏像の外側から顔のすぐ近くをステッキや素手で何度も激しく叩かれたので、発見されたとき春馬さんは緊張を解くことができず、救出記者会見の場面まで、ぎこちない演技のままで、殿村の身勝手な振る舞いばかりが目立つ結果になっています。中村警部役の伊東四朗さんも福澤の粗暴な演出にあきれ果てて、非常にしらけた表情をしています。

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泰少年の発見記者会見の場面


この場面でステッキを振り下ろす殿村は『森の学校』で、竹刀を振り下ろす憲兵隊長の息子を基にしており、終始無言の泰少年は、竹刀に堪える場面を基にしていると考えられます。

『森の学校』で憲兵隊長の息子が振り下ろす竹刀にひるまない勇敢な雅を演じた春馬さんが、振り下ろされるステッキの音に怯える姿を画面に映したくて、福澤はこのような粗暴な演出をしたのでしょう。

また、福澤が春馬さんに粗暴な演出を仕掛けたのは、春馬さんを生徒役として『金八先生』に出演させない意図もあったと考えられます。この頃、『金八先生』は2年から4年おきに製作されていました。

『明智小五郎対二十面相』が放送された時、春馬さんは12才でした。2001年10月~2002年3月に『金八先生』第6シリーズが放送されたので、次の第7シリーズは2003年~2005年の間に製作される事が予想できました。その時、春馬さんは13~15才の中学生で、ちょうど生徒役にふさわしい年齢です。

春馬さんは、生野慈朗さん監督の『真夏のメリークリスマス』第1話に出演し、実質主演の『森の学校』や『武蔵 MUSASHI』などの作品もあり、高い演技力には折り紙付きです。もし生徒役オーディションを受ければ、原作者である小山内さんの目に留まり、合格したでしょう。

脚本には、俳優の個性にそってイメージを膨らませ、創作する「あて書き」と呼ばれる手法があります。春馬さんが生徒役になれば、小山内さんは『森の学校』で描かれたのと同じ、平和や友情の大切さを訴えるストーリーを考えたと考えられます。

しかし、それは第6シリーズで、まだ未成年で女性の上戸彩さんに男子生徒役の俳優と本気でビンタを張り合えと命じる福澤の価値観とは相容れないものです。春馬さんを金八先生に出演させないためには、春馬さんが生徒役オーディションを受けないようにする必要がありました。

また、春馬さんがオーディションを受けなくても、魅力的な生徒役を探している小山内さんの意向を受けて、生野さんから春馬さんに誘いがある可能性もありました。春馬さん側から金八先生への出演を断らせる必要があったのです。春馬さんに自分が演出する『金八先生』への出演を敬遠させるため、福澤は必要以上に暴力的な演出を行ったと考えられます。

しかし、春馬さんが、ステッキをたたきつけられる石膏像の中で無言を貫き通したことで、福澤の意図に反して、春馬さん本人が雅のように勇敢な少年である事と、まだ子供でありながら、場面に対する深い理解力を持つ名優である事を証明してしまいました。

木村ひさしが演出した『カネ恋』第3話では、早乙女と玲子がデートする場面で、道ばたに縛られ河童の像が写りますが、これは春馬さんが閉じ込められた石膏像を表していると考えられます。黒木瞳さんなど『明智小五郎対二十面相』に関わった人達に、福澤が『カネ恋』での嫌がらせに関わっていることを示すために、画面に映したと考えられます。

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木村ひさし演出『カネ恋』第3話の縛られ河童

また木村ひさしが演出した『カネ恋』第3話で、慶太と同じ熱帯林柄の服を着た猿型ロボットの目が光る場面があります。『明智小五郎対二十面相』で、福澤は、二十面相に催眠術をかけられた泰少年役の目が光る演出をしています。

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『カネ恋』で猿型ロボットの目が光る場面
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二十面相に催眠術をかけられた泰少年役の春馬さんの目が光る場面

従って、猿型ロボットの目が光る演出は、この猿型ロボットが、春馬さんの分身である事を意味し、春馬さんへの嫌がらせです。また、この演出は、福澤が『カネ恋』での春馬さんへの嫌がらせに深く関わっていることを示しています。

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