1.3 一瞬の映像に込めた思い

  1. はじめに
  2. オマージュとマリス
  3. 一瞬の映像に思いを込める

スポンサーから得た多額の費用をかけて制作され、公開される映像作品では、様々な制約のため、作者が本当に伝えたいことを伝えられない場合があります。

そんな時、台詞やニュース原稿では表せない、本当の気持ちを伝えるために、その気持ちを表現した一瞬の映像を、制作者が差し挟んでいる事があります。

日本で最も有名なその例は、昭和18年(1943年)雨の神宮外苑で行われた学徒出陣式、日本ニュース 第177号「学徒出陣」映像の中の一コマです。

東条英機の演説が最高潮となったとき、画面は1人の学生の後ろ姿を頭から足下までパンダウンして、本来は、教室で着るべき学生服が、跳ね上げた泥によごれ、革靴には泥水が染みこんでいる様子を映します。

映像表現で、パンダウンは失意や落胆を表現します。この映像は、軍の検閲を逃れて、戦争の悲壮さを伝えるために差し込んだ事を、元日本ニュース製作部長の土屋斉は以下の様に語っていた事が、NHK 映像の世紀 バタフライエフェクト・バタフライブログで紹介されています。

学徒出陣を一言でいうなら、まさしく『悲愴』です。一人の学生の後姿を帽子から足元まで長くパンダウンするシーンがありましたが、そのシーンに東条首相の演説をかぶせたりしたのは、悲愴感を盛り立てるために意図的に編集したものなんです。

 この例は戦時中の国威高揚プロパガンダに対する抵抗ですが、平和な現在の日本社会でも、一瞬の台詞や映像に、制作者の思いが込められている場合があります。

春馬さんの出演作や、オマージュを捧げている作品に、差し込まれた、そんな一瞬の映像も、事件を解く鍵になります。

「1.3 一瞬の映像に込めた思い」への1件のフィードバック

コメントする